エネ資源「最後のフロンティア」=北極圏、サウジしのぐ埋蔵量―日本参加のLNG開発、暗礁に・第2部「蒼い北極」(7)・〔66°33′N=北極が教えるみらい〕 2024年10月08日 07時21分

 北極圏には、原油埋蔵量が世界最大級のサウジアラビアをしのぐエネルギー資源が眠っている。米国やロシアをはじめとする周辺国はこの資源の宝庫を「最後のフロンティア」と呼び、熱い視線を送る。エネルギー源を輸入に頼る日本も、極寒の地で液化天然ガス(LNG)を開発するロシア主導のプロジェクトに参加しているが、ウクライナ侵攻で計画は暗礁に乗り上げた。

 ◇氷の下の可能性
 「日本のエネルギー安全保障上、北極海の重要性は変わっていない」。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)エネルギー事業本部の原田大輔企画課長は、氷の下に隠れている資源の確保に期待を寄せる。採掘が見込まれる原油や天然ガスなどの埋蔵量は原油換算で3117億バレルと、サウジの確認埋蔵量2975億バレルを上回る。このうち、石油や石炭に比べて温室効果ガス排出量の少ない天然ガスが2542億バレルを占める。
 北極のエネルギー開発は現在、砕氷船が比較的航行しやすいロシア沿岸部で主に行われている。ロシアはヤマル半島のLNG開発に成功した後、ギダン半島で「アークティックLNG2」の開発に着手。2019年にJOGMECと三井物産が参加を表明した。
 アークティック2は3基のプラントを整備する計画で、1基は既に完成している。年間の生産能力はそれぞれ660万トンで、すべて稼働すれば2000万トン弱の生産が可能。JOGMECと三井物産は共同で10%の権益を保有しており、年間200万トン近いLNGを引き取れるはずだった。これは日本のLNG輸入量の約3%に相当する。

 ◇制裁対象に
 しかし、ウクライナ侵攻後の23年11月にロシアの運営企業が西側の制裁対象に指定された。日本側は「権益を保有したまま、運営には関与できない状態」(原田氏)に陥り、エネルギーの脱中東依存につながる数少ないチャンスが宙に浮いた。
 日本は今後、北極圏の資源開発にどう向き合うべきか。国際協力銀行の加藤学エネルギー・ソリューション部長は、エネルギー自給率が13%と経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中で37位にとどまる点を踏まえ、「簡単に権益を放棄すべきではない」と訴える。米ロのはざまで立ち回るのは容易ではないが、「日本が生き抜く知恵として、現状維持は十分に肯定できる対応ではないか」と指摘する。


 ▽ニュースワード「アークティックLNG2」
 アークティックLNG2 ロシア北極海沿岸のギダン半島で進められている天然ガス開発プロジェクト。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と三井物産の共同出資会社が事業会社に10%を出資し、同率の権益も持つ。三つのプラントで年間1980万トンの液化天然ガス(LNG)を製造し、北極海航路を使ってアジアや欧州に供給する計画で、一部は既に稼働している。しかし、ロシアのウクライナ侵攻で制裁対象となり、日本側は運営に関与できない状態となった。 

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