【2021年7月15日~16日】金融政策決定会合における主な意見(要約) 2021年07月28日 09時00分
金融政策決定会合における主な意見(2021年7月28日)
1.金融経済情勢に関する意見
(1)経済情勢
- わが国の景気は、内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している。
- 世界経済は、ワクチン接種の進捗状況に応じた回復ペースの不均一性や、新型コロナウイルスの変異株による感染症の拡大という不確実性は残るものの、全体的には回復基調を維持している。
- 当面の経済活動の水準は、対面型サービスを中心に低めで推移するものの 、 ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、わが国経済は回復していく。
- 国内経済は、短期的には、緊急事態宣言の再発出により消費の下押し圧力が強まるものの、やや長い目でみれば、緩和的な金融環境が持続するもとで、設備投資の増加が見込まれることもあり、回復基調を強めていくとみられる。
- 6月短観などをみると、製造業を中心に人手不足感が幾分強まっているように見受けられる。そうしたもとで、雇用者所得が持ち直していけば、消費の力強さにもつながり得る。
- 輸出や生産が増加するもとで企業業績は改善しているが、感染再拡大の影響を受けて、本格的な回復は若干後ずれするとみられる。
- 当面、感染症拡大により経済の下押し圧力が高まるリスクがある。一方、ワクチンの普及が加速すれば、経済活動が想定以上に活発化する可能性もある。
- 経済活動は、ワクチン接種の進展に伴い活発化すると考えられるが、公衆衛生上の措置が強化される中、感染症の帰趨と経済・物価の下振れリスクにも引き続き注意が必要である。
- ワクチン接種が進捗するもとでわが国経済は回復していくが、雇用改善の足踏みと欧米対比での株価の停滞には留意すべきである。
- 家計が、適切なリスク分散と長期保有の視点のもとで、現預金の一部を株式や投資信託に投資することで、配当収入などを通じて海外経済の成長を取り込むことが期待できる。
- 輸出企業の価格設定行動の変化や現地生産の動き、昨年春にみられた有事のドル買いの復活など、外国為替を巡る環境変化により、金利低下が経済に影響を及ぼす経路にどのような変化が生じていくか、注視していく必要がある。
- 将来、感染症対策の財源を確保していく過程では経済活動に影響が及ぶ可能性があり、財政健全化を巡る今後の議論を注視する必要がある。
(2)物価
- 消費者物価の前年比は、目先、0%程度で推移した後、経済の改善が続くもとで、徐々に上昇率を高めていく。
- 消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げなどの一時的な影響を除くと上昇傾向にある。
- 値下げにより需要喚起を図る動きは広範化していない。企業の価格設定スタンスは、感染症の影響が収束していく中で徐々に積極化していくと考えられる。
- 先行き、国際商品市況、特に原油価格の動向と、それが企業物価や企業の価格設定行動、家計の値上げ許容度へ与える影響には留意する必要がある。
- 国際商品市況が上昇する中でも予想インフレ率に大きな変化はなく、「物価安定の目標」の達成には依然として力不足である。
2.金融政策運営に関する意見
(1)金融政策運営全般
- 引き続き、「3つの柱」による金融緩和を通じて、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要である。
- 外部資金の調達環境は良好な状態を維持しているが、企業等の資金繰りにはなお厳しさが残っている。引き続き、企業等の資金繰りを支援していくことが適当である。
- 資源価格の上昇で消費者物価(除く生鮮食品)の前年比も上昇するが、2%の「物価安定の目標」の安定的達成には距離があり、時期尚早に金融を引き締めないことが重要である。
- 大規模な財政支援策が行われている先進国の中には、ワクチン接種が進み、経済が正常化する中で、インフレ率が高まり、金融緩和の縮小を模索する動きもみられる。デフレマインドが根強いわが国でも、政府と連携しつつ、粘り強く金融緩和を継続することで、「物価安定の目標」である2%につなげていくことが重要である。
- 金融政策運営では、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と目標達成を早期に実現する必要がある。
(2)気候変動対応を支援するための資金供給
- 気候変動関連分野での各国の取り組みの現状に鑑みると、市場中立性への配慮と政策の柔軟性を併せ持つ、気候変動対応投融資をバックファイナンスする新たな資金供給の仕組みは適切である。
- 対象投融資の具体的な判断を金融機関に委ねつつ、一定の開示を求めることで規律付けを図る仕組みは適当である。
- 気候変動対応のための資金供給では、政策の説明責任、データ収集の観点から、金融機関による事前事後の一定の開示が必要である。移行リスクに鑑みて、トランジション・ファイナンスは対象とすべきである。また、政策効果の検証が望まれる。
- 気候変動対応の新たな資金供給手段については、気候変動を巡る外部環境が流動的なもと、中央銀行のマンデートとの関係に十分に留意しつつ、対象範囲を慎重に選ぶことが重要である。
- 息の長い取り組みとなる新たな資金供給は、貸付利率を0%としたうえで、貸出促進付利制度上の付利は0%とすることが適当である。また、2030 年度まで借り換えを認めることで、実質的に長期のバックファイナンスを提供できる。
- 気候変動対応を支援するための資金供給は、長い目でみてマクロ経済の安定に資すると考えられる、息の長い前向きな取り組みである。こうしたことから、気候変動問題に対する本行の立場や取り組み方針を分かりやすく示し、内外の市場関係者はもとより、国民一人一人に正しく理解してもらうことがきわめて重要である。
- わが国では、化石燃料への依存度が高く、間接金融が大きな役割を担う。中央銀行が直接介入して気候変動対応を進めていくと、金融システムに様々な歪みが生じる可能性がある。この点、今回の仕組みは、金融機関が自らの判断で行う気候変動対応投融資を支援する形としており、そうした影響を回避できる。
- 気候変動対応に向けた経済・社会の変革には巨額の投資が持続的に行われるエコシステムの構築が重要であり、海外で検討が進んでいる国境炭素税の導入や環境債市場の整備などの情勢変化を適切に把握しつつ、情報発信などを通じて変革に貢献すべきである。
- 脱炭素社会の実現には新規の研究開発・設備投資が欠かせず、そのためには経済成長が必要である。気候変動対策と経済成長の両立に向けて一層の調査・研究が重要である。
- 金融政策の観点から気候変動問題に取り組むに当たっては、経済・物価への影響について、予断を持たずに、政策判断の基盤となる調査・研究の蓄積を進める必要がある。
- 気候変動問題がマクロ経済に具体的にどのような影響を及ぼすのかについての分析や調査・研究を、引き続き深めていくことが重要である。
3.政府の意見
(1)財務省
- G20では、気候変動を含む幅広い課題について議論が行われ、国際協調の動きが進んでいる。気候変動問題に関する新たな資金供給制度も、この動きに沿ったものと考える。
- 令和4年度予算は、グリーンを含め新たな成長の原動力となる分野に予算を重点化していく。歳出改革努力を継続し、経済再生と財政健全化を進めていく。
- 日本銀行には、政府との連携のもと、感染症への対応をはじめ、必要な措置を適切に講じることを期待する。
(2)内閣府
- 内閣府年央試算では、実質GDPは本年中にコロナ前の水準へ回復し、来年度には過去最高になると見込んでいる。
- 引き続きワクチン接種の迅速な実行とともに、骨太方針2021を踏まえ、民需主導の力強い成長の実現、賃上げできる環境の整備に努める。
- 気候変動対応を支援するための資金供給は、グリーン社会の実現に向けた政府の取り組みに呼応した時宜を得たものであり、日本銀行には、引き続き政府との緊密な連携をお願いする。
[ゴールデン・チャート社]
■参考資料(外部サイト)
金融政策決定会合における主な意見(2021年7月15、16日開催分)(日本銀行)
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