「ドル基軸」体制、岐路に=トランプ関税、秩序転換図るも―通貨「多極化」へ・戦後80年 2025年08月10日 15時01分

米ニューヨークのプラザホテル=2005年7月
米ニューヨークのプラザホテル=2005年7月

 【ワシントン時事】戦後80年、米国と通貨ドルは一貫して世界的な市場経済と自由貿易の中核であり続けてきた。トランプ大統領は米国の大幅な貿易赤字を問題視。高関税政策をてこに「世界貿易システムの転換」(ベセント財務長官)を図る。だが、経済覇権を振りかざす手法は先行き不透明感を高め、ドルの信認を揺るがしている。
 ◇「敗戦に匹敵」
 「世界大戦で負けるようなものだ」。トランプ氏は基軸通貨ドルの地位喪失を敗戦に例え、ドルを介さない決済手段を探る新興国グループ「BRICS」に関税の脅しをかける。
 もっとも、最近のドル安基調はトランプ氏肝煎りの政策が原因だ。貿易相手国・地域に対する相互関税を発表した4月2日以降、ドルは下落の一途をたどる。大型減税による米財政の悪化懸念、連邦準備制度理事会(FRB)への度重なる利下げ圧力も、ドルの信認をむしばむ。
 戦後80年間で、米国が貿易赤字削減など自らの都合でドル安誘導に乗り出したことはある。ニクソン大統領(当時)が金とドルの交換停止を突然発表した1971年の「ニクソン・ショック」、日米独英仏が為替協調介入を行った85年の「プラザ合意」は、世界に大きな衝撃を与えた。
 ◇「プラザ合意」再現なるか
 日本と中国が自国産業に有利な通貨安を志向していると再三批判するトランプ氏。貿易問題と通貨政策を絡めてディール(取引)を持ち掛ける「第2のプラザ合意」の観測もくすぶる。
 国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミストのオブストフェルド氏は、米国がニクソン・ショック時に国際収支改善を目指した輸入課徴金(関税に相当)を導入するなど、トランプ政権と「類似点がある」と指摘。だが、違いとして「ニクソンにはドル切り下げという目標があったが、トランプ氏の行動に指針はない」と喝破した。
 実際、トランプ氏は「強いドル」を支持する一方、「弱いドルの方が(輸出で)たくさん稼げる」とも発言。通貨政策で「根本的な矛盾」(オブストフェルド氏)を抱えている。
 オブストフェルド氏は、かつてプラザ合意を日欧が受け入れた理由として「著しいドル高に伴う米国の保護主義を防ぐためだった」と振り返る。「通貨協定に合意すればトランプ氏が関税を撤回するとは誰も思わない」とし、為替を巡る多国間協調の再現を疑問視した。
 ◇進むドル離れ
 基軸通貨ドルの代替になる通貨は今のところ、見当たらない。カミン元FRB国際金融局長はトランプ氏の政策はドルの地位にとって「危険」としつつ、「ドルは今後も、長年にわたり支配的地位であり続ける」と見込む。
 しかし、米国の高関税政策で世界の対米貿易が縮小すれば「ドル離れ」は不可避との見方も浮上する。オブストフェルド氏は「欧州に近い国はユーロ建てで、中国が近ければ人民元建てで、より多くの決済が行われる」と予想し、準備通貨の「多極化」時代到来を見通した。 

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