「同僚はみんな帰った」=北朝鮮労働者、姿少なく―取り残された女性は不満・中国東北部 2024年04月29日 14時48分
北朝鮮は昨年8月以降、新型コロナウイルス対策として実施していた国境封鎖を段階的に緩和した。中国と平壌を結ぶ直行便も再開され、長らく中国側に足止めされていた労働者の帰国も進む。一方で、中国への新たな労働者の流入は少なく、中国国内の北朝鮮レストランでは人手不足が深刻化している。
◇「ショーができない」
「同僚はみんな(北朝鮮に)帰ってしまった。いつ戻るか分からず、以前のようなディナーショーもできない」
4月下旬、北朝鮮北西部の新義州市と鴨緑江を挟んで接する中国東北部・遼寧省丹東市。市内の飲食店で働く北朝鮮の女性はこう語り、寂しそうに首を振った。華やかな衣装の北朝鮮女性が観光客に歌や踊りを披露するステージが売りの店だった。
複数の北朝鮮レストランで話を聞くと、多くが似たような状況で、集客に苦労している様子がうかがえた。かろうじてショーを続ける店でも、舞台に上がる女性の数は昨年春の取材時から明らかに減っていた。
かつて多くの北朝鮮労働者が寮住まいで働いていたという市内の工業団地を訪れると、門の内側は閑散としていた。地元の情報筋によると、大部分が帰国したため、現在は中国人を雇って操業を続けているという。
◇広がる焦り
北朝鮮は外貨を稼ぐために労働者を友好国に派遣しており、コロナ禍以前は中国に約10万人、ロシアに数千人いたとの推計がある。中朝間の往来が段階的に再開された現在、労働者の大規模流入が起きてもおかしくないが、実際には確認されていない。中国側が制限を加えている可能性もある。
国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議は、こうした労働者を2019年末までに送還するよう関係国に求めていた。米国への対抗上、北朝鮮との「友好」を誇示する習近平政権だが、中朝情勢に詳しい関係者は「ほとんどの業種は中国の労働者で代替可能。リスクを負って北朝鮮から人を受け入れ続けるメリットは少ない」と指摘する。
一方、先の情報筋によると、コロナ禍の影響で既に10年近く帰国がかなわない労働者もいる。「出稼ぎ」は通常3年程度。北朝鮮では女性は20代後半になると結婚が困難とされ、中国に取り残された形になっている女性労働者の間には、焦りと失望が広がっているという。
◇異例の抗議
韓国の聯合ニュースは今年2月、専門家の話として、丹東の北朝鮮労働者がストライキを敢行したと報じた。労働者数十人が「帰国」を要求して出勤を拒否し、北朝鮮の外交当局者が沈静化を図る事態になったとされる。
遼寧省同様、北朝鮮と国境を接する吉林省でも1月、賃金の未払いに怒った北朝鮮労働者2000人余りが暴動を起こし、工場を占拠。管理職1人が死亡したと伝えられている。
北朝鮮の労働者は通常、勤務時間外でも行動を厳しく制限される上、上層部に逆らえば帰国後に厳罰に処される恐れもある。抗議活動は異例だが、中朝当局はいずれも争議について公表していない。