バイデン氏、大きな外交遺産=再選断念、直前まで交渉―「同盟重視」の真骨頂・米 2024年08月02日 14時19分
【ワシントン時事】米ロなど7カ国が関わり、24人の拘束者が解放された「冷戦後最も複雑な囚人交換」(米メディア)は、「同盟重視」を基軸に据えたバイデン米大統領(81)の大きな外交的遺産となった。数年前から極秘裏に進められた外交交渉。バイデン氏は先月21日に再選断念を表明するわずか1時間前まで、最終調整に当たっていた。
◇諜報ルート
「きょうは素晴らしい日だ」。1日、ホワイトハウスで米国人ら4人の帰国を発表したバイデン氏の表情は晴れやかだった。交渉妥結にはドイツなど同盟5カ国の協力を得たと明かし、「世界に友人を持つ重要性の強力な証左だ」と誇った。
2018年にロシアに拘束された元海兵隊員ポール・ウィラン氏を含め、米国人の解放に向けた取り組みは20年大統領選後、バイデン氏の就任前から始まった。同氏は政権移行期間中から、対応を急ぐよう安保チームに指示していた。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、21年6月、ロシアのプーチン大統領はバイデン氏との最初で最後となる対面会談で、外交当局ではなく諜報(ちょうほう)機関による交渉ルート立ち上げを提案。バイデン氏はこれを受け入れ、以後、女子プロバスケットボール選手ブリトニー・グライナーさんを含む複数回の囚人交換が行われた。
◇「あなたのために」
ロシアによるウクライナ侵攻で米ロ関係が悪化する中、23年3月以降、新たに米国人記者エバン・ゲルシコビッチ氏らが逮捕される。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)によれば、ロシア側はドイツで殺人罪で服役していたワジム・クラシコフ工作員のほか、ポーランド、スロベニア、ノルウェーで拘束中のロシア人との交換を要求した。このため、交渉は4カ国と、後方支援を申し出たトルコを巻き込む形で進められた。
当初、ドイツ側は悪名高い暗殺者の釈放に難色を示していた。バイデン氏は今年1月、ショルツ独首相に直接譲歩を依頼する。ショルツ氏は悩みながらも、2月までに「あなたのためならやりましょう」と請け負った。バイデン氏は「仕上げてくれ」とサリバン氏に調整を指示。大規模な囚人交換の計画が、一気に動きだした。
7月21日午後、バイデン氏はスロベニアのゴロブ首相に電話し、囚人解放に必要な恩赦の約束を取り付けた。その1時間後、大統領選から退く意向をX(旧ツイッター)で明らかにした。
「ジョー・バイデンが大統領でなければ実現していなかった」。サリバン氏は1日の記者会見で、来年1月にホワイトハウスを去る上司に最大限の賛辞を贈った。冷静沈着で知られる大統領補佐官の目には涙が浮かんでいた。