80年代の対日観が源=トランプ関税、標的は中国 2025年04月25日 15時27分

トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(左)(AFP時事)
トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(左)(AFP時事)

 米国の自動車を日本で走らせる、貿易赤字ゼロ、軍事費の負担増―。トランプ米大統領は16日、ホワイトハウスで日米閣僚級の関税を巡る協議にわざわざ出席し、日本側に一連の要求を突き付けた。
 「私が通商代表部(USTR)に入った1985年を思い出す。トランプ氏の日本に対する発想は80年代に形成され、今も固執しているようだ」。USTRで日本・中国担当の代表補代理を務めたグレン・フクシマ氏はこう指摘。「彼は日本が通貨を操作していると思っている」とも語った。
 ◇脅威実感
 ニューヨーク・タイムズ紙によると、トランプ氏は88年、名作映画「カサブランカ」(42年)で使用されたピアノのオークションで日本の代理人に敗れ、経済的な脅威を実感した。同氏はそれ以降、日本への関税を頻繁に主張するようになる。
 当時、日本企業の対米輸出は激増。ニューヨークなどで資産を買いあさった。米国内では議会を中心に、日本が防衛費を低く抑えて経済発展を加速させているとする「安保ただ乗り論」が高まっていた。
 それから30年弱が過ぎ、トランプ氏の主張に米社会の現実が追い付いた。米国が推進してきた自由貿易体制が国内の製造業を空洞化させ、中間層が疲弊。2016年の選挙で、有権者の怒りがトランプ氏を大統領に押し上げた。
 トランプ氏は今月、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、「相互関税」と称して全ての国や地域を対象に一律で10%、国別に上乗せ分(90日間の停止)の関税を課すと発表。これと前後して、アルミ・鉄鋼や自動車の関税を25%に引き上げた。
 ただし、1980年代との違いは真の標的が日本ではなく、最大の競争相手の中国である点だ。
 ◇分離か取引か
 政権の関税政策の思想的支柱であるナバロ大統領上級顧問は、保守派シンクタンクの政策提言の中で、「米国は民主主義を守るため、製造業と防衛産業基盤の再生が必要だ」と主張。その上で「(大統領は)中国との経済的なデカップリング(分離)か、独裁政権との交渉を継続するか問われる」と明記した。
 「トランプ関税」を受け、かつての強敵日本はいち早く交渉の席に着いたが、中国は報復関税で対抗。米中貿易戦争の激化に株式や債券市場は動揺している。
 トランプ氏は強気の姿勢を崩していないが、自著の中で、冷戦時代の転換点の一つとなった72年のニクソン大統領による中国訪問を「偉大なディール(取引)」と称賛している。デカップリングかディールか。どちらの道に進んでも、時代の転機になる可能性はある。(ワシントン時事)。 

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米国の港に停泊する中国のコンテナ船=3日、西部カリフォルニア州ロングビーチ(AFP時事)
米国の港に停泊する中国のコンテナ船=3日、西部カリフォルニア州ロングビーチ(AFP時事)

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