条約採択「始まりにすぎず」=途上国支援、具体化はこれから―WHO 2025年05月20日 15時31分

【パリ時事】感染症のパンデミック(世界的大流行)対策を強化する国際条約は、コロナ禍当時の提唱から4年余りを経て採択にこぎ着けた。「歴史的瞬間」「大きな一歩」と評価する声がある一方、焦点の途上国支援が具体化するのはこれから。多くの世界保健機関(WHO)加盟国代表は、条約採択が詰めの交渉に向けた「始まりにすぎない」と冷静に受け止めている。
「どの国も独力ではパンデミックに立ち向かえない。すべての人が安全になるまで、誰も安全でない」。欧州・アフリカの首脳らは2021年3月にこう訴え、コロナワクチンの公平な分配を求めた。条約交渉では「病原体アクセスと利益分配(PABS)システム」と呼ばれる新制度を盛り込む方向で検討が進んだ。
PABSの下、締約国は自国で感染症が発生すると、病原体情報を速やかに提供する。製薬企業はこれを利用してワクチンや新薬を開発。生産の一部は途上国に無償・安価で供与する仕組みだ。
技術力や資金に乏しく、自力での感染症対策の向上に限界がある途上国は、交渉で先進国に最大限の支援を要求。コロナ禍での「ワクチンナショナリズム」が批判を浴びた先進国には負い目があったが、自国の製薬企業が過度の負担に直面することには断固反対した。
先進国と途上国はPABSの大枠で一致したものの、細かな条件面での歩み寄りが難しく、懸案を先送りして条約採択を最優先する方針が24年に決まった。それでも交渉は難航。期限を1年延長した末、今年4月にようやく妥結した。
PABSのほか、医薬品の公平な確保を実現する供給網の構築や、途上国の資金調達支援といった国際協調策は、どれも解決が待たれる課題だ。「今後の交渉の方が大変だ」(欧州メディア)という見方すらある。
先進国と途上国の対立は、19日に開幕したWHO年次総会で再現された。途上国がワクチン確保や資金調達での「国際協力は極めて重要だ」と訴えたのに対し、日本政府代表は、PABSは「妥当で実行可能」であるべきだと指摘。「さもなければ、条約は(製薬)業界に支持されず、空中楼閣となるだろう」と警告した。