邦人拘束、日中関係改善を阻害=「国家安全」重視の習政権 2025年07月16日 19時35分

【北京時事】中国で拘束されたアステラス製薬の日本人男性社員に、中国の裁判所が16日、スパイ活動を認定し実刑判決を言い渡した。日中関係は改善基調にあるが、懸案の一つであるスパイ容疑による邦人拘束は「日中間の人的往来、国民感情の改善を阻害する最大の要因」(金杉憲治駐中国大使)となっている。
実刑判決を受けた男性は、現地法人幹部も務めたベテラン駐在員。中国駐在歴が長く、北京の日系企業関係者の間では「中国通」として知られた。「中国の医薬品業界に貢献した人物」との声もあり、拘束は在留邦人に大きな衝撃を与えた。
共産党による統治体制の強化を図る習近平政権は、「国家安全」を極めて重視している。2014年に反スパイ法を制定し、23年7月には同法を改正し適用範囲を拡大。24年7月には、同法の運用に当たって当局者にスマートフォンやパソコンの検査権限を与える新規則も施行し、スパイ摘発の体制を強化している。
同法はスパイ行為の定義があいまいで恣意(しい)的な運用への懸念が根強い。16日に男性の公判を傍聴した金杉大使は、中国側の司法手続きについて「透明というレベルではなかった」と批判。どのような行為がスパイとみなされるか分からない現状に、改めて懸念を示した。
一方、中国外務省の林剣副報道局長は同日の記者会見で「司法機関は厳格に法に従い案件を処理している。外国人は法律を守っていれば何も心配する必要はない」と反論した。
習政権は、日本産水産物の輸入再開を決めるなど日中関係の改善に乗り出している。今回の邦人拘束も「外交カードの一つとして解決を急いだ可能性は否定できない」(日系企業関係者)。だが、実刑判決に中国でビジネスを展開する日本企業や在留邦人の不安は高まったままだ。