豪、原発導入案に地元困惑=「危険」「水が心配」―野党公約、総選挙の争点 2025年04月30日 15時05分

閉鎖されたリデル石炭火力発電所=27日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域
閉鎖されたリデル石炭火力発電所=27日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域

 オーストラリア総選挙(5月3日)で野党・保守連合が、現在は法律で禁じられている原発の導入を公約に掲げ、争点となっている。公約で示された7カ所の計画地の一つ、東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域の住民は「危険」「水資源が心配」などと困惑を隠せない様子だ。
 ◇「野党は説明不足」
 ハンター地域はワインの名産地で、畜産業や鉱業も盛んだ。保守連合は、2023年に運転を終了したリデル石炭火力発電所の跡地への原発建設を提案している。
 4月26日、期日前投票所の門前で支持を訴えていた保守連合のスー・ギルロイ候補(66)は、取材に「原子力とガス、再生可能エネルギーをバランス良く組み合わせて電気代を安くする」と強調。安全面の懸念については「技術的に克服できる」と言い切った。
 別の投票所前で同日、下院議員2期目を目指し運動していた与党・労働党のダン・レパコリ氏(42)は、取材に対し「稼働まで15~25年もかかる原発案は非現実的だ」と反対を明言。「どんな規模の原子炉を造るのか、放射性廃棄物をどう処分するのか、具体的な説明が不足している」と野党の姿勢を批判した。
 ◇廃棄物は「半永久」
 この地域では23日にマグニチュード(M)4.6の地震が起きたばかりで、投票を終えた有権者は原発案への懸念を相次いで口にした。元教員の女性(72)は「福島やチョルノービリ(チェルノブイリ)の事故を見れば、原発は危険だ」と主張。自営業の男性(55)は「放射性廃棄物の危険性は半永久的に続く」と指摘した。
 牛を育てる畜産農家の女性(45)は「原発は冷却水を大量に確保する必要がある。水源が独占され、農業に使う水が枯渇しないか心配だ」と表情を曇らせた。パキスタン出身の30代の移民男性は「再生エネを進めている時代に原発を造るのは無駄だ」と語った。
 ◇「雇用」に期待も
 原発案を支持する声もある。鉱山で働く男性(32)は「火力発電所は閉鎖され、炭鉱もいつまで持つか分からない。原発ができれば雇用が生まれる」と期待を込めた。会社員の男性(28)は「電気代が高過ぎる。安くなるなら原発でも何でもいい」と話した。
 一方、リデル発電所跡に近い湖畔でキャンプをしていた男性(60)は「原発を公約した野党も、再生エネを進める与党も、自身に都合のいいことしか言わない。正確な情報を提供してほしい」と不満をあらわにした。
 ハンター選挙区では諸派を含め計9人が出馬。原発案に緑の党は反対、極右ワンネーション党は支持している。(ハンター=豪東部=時事)。 

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期日前投票所の前に立つ保守連合のスー・ギルロイ氏=26日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域
期日前投票所の前に立つ保守連合のスー・ギルロイ氏=26日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域
期日前投票所の前で笑顔を見せる労働党のダン・レパコリ氏(左)=26日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域
期日前投票所の前で笑顔を見せる労働党のダン・レパコリ氏(左)=26日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域
石炭貨車越しに見えるリデル石炭火力発電所跡(左上)=27日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域
石炭貨車越しに見えるリデル石炭火力発電所跡(左上)=27日、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州ハンター地域

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