「ムダ削減」退役軍人も標的=自殺対策、細るケア―トランプ米政権100日 2025年05月02日 14時56分

退役軍人が眠るシャイアン国立墓地=3月28日、米西部ワイオミング州シャイアン
退役軍人が眠るシャイアン国立墓地=3月28日、米西部ワイオミング州シャイアン

 【シャイアン=米ワイオミング州=時事】トランプ米政権は「政府効率化」を掲げて連邦職員や支出の削減を進め、歴代政権で「聖域」とされた退役軍人への支援もその標的となった。除隊後も身体的障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみ、一般社会の生活になじめない元兵士は少なくない。国に身をささげた軍人のケアを「ムダ」と切り捨てる態度は、怒りを呼んでいる。
 ◇高い自殺率
 「話が違う」。西部ワイオミング州退役軍人委員会のティモシー・シェパード事務局長(67)は憤慨した。州都シャイアンで2月、退役軍人省傘下のメンタルケア施設の責任者が解雇されたためだ。元軍人の医療・住宅支援などを統括する同省は、職員約48万人の17%に当たる約8万人を解雇する計画だが、同省のコリンズ長官は「退役軍人に接する職員は対象外」と説明していたという。
 退役軍人の自殺率は一般人の約1.6倍に上る。同州は、その割合が全米平均よりもさらに47%高いことが問題となっている。
 日本の面積の3分の2に当たる広大な土地に対し、人口は全米50州で最少の約58万人。うち退役軍人が約4万5000人を占める。荒涼と広がる大平原や干渉を嫌う土地柄が、厳格な規律から解き放たれ、自由を求める元兵士たちにとって魅力となってきた。
 こうした環境は心の癒やしをもたらすと同時に、孤立を深め、社会生活への適応を妨げる。同州では銃の入手も容易で、衝動的な死を可能にしてしまう。「軍人は救いを求めることを恥じる傾向がある」ため、適切な支援には専門的知見が欠かせないが、ケアワーカーは常に不足している。
 ◇民間の役割に重み
 元陸軍ジョージ・デボノ氏(53)は2001年の同時テロ後、イラクに2度派遣された。群衆に敵が紛れ込んでいるかもしれず、常に極度の緊張を強いられた体験から「人が多い所は安心できない」。スーパーに買い物に出かけるのも苦痛で、PTSDと診断された。
 警戒心が解けず、通りを歩くこともままならない仲間や、身体的障害から「自分は人々の重荷だ」と感じる仲間もいる。酒や薬物への依存も深刻な問題で、退役後の生活は「別の戦場」だと表現する。
 デボノ氏は今、孤立した元軍人に地域社会復帰を促す民間事業「ベテランズ・トーキング・トゥ・ベテランズ」に参加している。部下を自殺で失い、「指揮官として不適格」と挫折を感じてきた。同じように心に重荷を抱える元軍人を支えることが、新たな生きがいになった。
 21年に始まった事業は、自殺念慮のあった50人以上を思いとどまらせたといい、今後、活動地域を増やす方針だ。政府の支援が削られる中、デボノ氏は「私たちの役割が重みを増す」と考えている。
 元軍人は退役軍人省をはじめとする連邦組織で優先的に雇用されてきた経緯があり、人員削減の影響が直撃している。シェパード氏は「退役軍人への支援は政府の義務。果たされなければ国民は不満を抱き、投票で行動するだろう」と語った。 

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取材に応じる「ワイオミング退役軍人委員会」のティモシー・シェパード事務局長=3月28日、米西部ワイオミング州シャイアン
取材に応じる「ワイオミング退役軍人委員会」のティモシー・シェパード事務局長=3月28日、米西部ワイオミング州シャイアン
取材に応じる退役軍人のジョージ・デボノ氏(右)=3月29日、米西部ワイオミング州シャイアン
取材に応じる退役軍人のジョージ・デボノ氏(右)=3月29日、米西部ワイオミング州シャイアン

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