求心力低下避けられず=メルツ氏への不満表出―保守・社民連立、もろさ露呈 2025年05月07日 00時09分

6日、ドイツ連邦議会(下院)で行われた首相指名選挙の1回目の投票後、うつむくキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首(中央)(AFP時事)
6日、ドイツ連邦議会(下院)で行われた首相指名選挙の1回目の投票後、うつむくキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首(中央)(AFP時事)

 【ベルリン時事】ドイツ連邦議会(下院)で6日に行われた1回目の首相指名選挙で、保守政党連合キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と中道左派の社会民主党(SPD)は、メルツCDU党首の首相選出に失敗した。メルツ氏は2回目で就任を決めたものの、強引な政治手法に対する不満が表面化し、求心力の低下は避けられない。連立のもろさも露呈し、専門家は「メルツ氏は信頼問題を抱えている」と指摘した。
 「メルツ議員は過半数に届かなかった。首相には選出されない」。クレックナー下院議長が1回目の投票結果を読み上げると、議場は静まり返り、メルツ氏は表情をこわばらせた。
 新政権樹立を目指す保守連合と社民は5日に連立協定を締結したばかり。メルツ氏の選出は確実視され、シュタインマイヤー大統領は首相任命の準備を整えて大統領府で待ち構えていた。
 今年1月のトランプ米大統領の返り咲きにより、ドイツの繁栄を支えてきた安全保障体制や自由貿易は激しく揺さぶられた。メルツ氏は昨年11月のショルツ政権崩壊以来、「政治空白」が続くドイツ政局の中で、反対意見を尻目に政策の実現を急いできた。
 トランプ政権発足直後の1月末には、既存政党から忌避されている極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の協力を受け入れ、移民対策の厳格化を求める決議を採択。「地獄の門を開いた」(社民幹部)と激しい反発を引き起こした。
 総選挙直後の3月には、防衛強化とインフラ投資に充てる1兆ユーロ(約162兆円)規模の巨額債務を可能とする基本法(憲法)改正に際し、新議会発足を待たずに3分の2以上の多数派を形成する奇策に打って出た。保守連合は「財政規律の堅持」を選挙公約に掲げていただけに、支持者の激しい突き上げを食らった。
 連立を巡っても、個人の自助努力を重視する保守連合と、社会保障重視の社民の間では財政や福祉政策で主張の隔たりが大きい。CDUのリンネマン幹事長は「党内に(メルツ氏に対する)信頼のギャップがある」と認めている。連立内にくすぶる「本音」が漏れた今回の投票は、メルツ氏の政権基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。 

海外経済ニュース