トランプ氏「再び米国で映画を」=「海外作品」に100%関税―コスト増で逆効果か 2025年05月11日 05時56分

【シリコンバレー時事】トランプ米大統領が、外国で作られた映画に100%の関税を課すと表明した。ロケ地や拠点の海外流出で、米国が「壊滅的な打撃」を受けたと主張。「再び米国で映画を作りたい」と意気込む。だが、関税は製作コスト上昇をもたらし、逆に米映画産業への打撃となりかねない。
◇「安全保障に脅威」
「米国の映画産業は、瀕死(ひんし)の状態だ」。トランプ氏は4日、外国が税制優遇で映画産業を誘致しているとSNSに投稿。「安全保障上の脅威」だと決め付けた。今年1月には、俳優のシルベスター・スタローンさんらを「ハリウッド特使」に任命し、業界に介入する姿勢を示していた。
米映画協会によると、2023年の米映画産業の対外的なサービス収支の黒字は、前年比5割増の153億ドル(約2兆2000億円)だった。それでもトランプ氏が主張するように、映画の聖地ハリウッドの制作現場としての地位が、相対的に低下した面はある。
非営利団体フィルムLAによると、ハリウッドを擁するカリフォルニア州ロサンゼルス近郊での長編映画の撮影日数は、24年が累計2403日と、18年比で45%減。カナダや英国、アイルランド、オーストラリアが誘致で実績を挙げている。
◇世界に広がる供給網
映画産業が海外を目指す背景には、動画配信サービスの普及で商機が世界に広がったこともある。より多くの視聴者をつかむため、米製作会社は国際共同製作や海外スタジオとの提携、海外拠点の開設を推進。サプライチェーン(供給網)がグローバル化した。
ただ、ハリウッドの苦境の原因を外国だけに見いだすのは早計だ。米国内にも誘致に取り組む州が多くあり、南部ジョージア州では23年度までの3年間、毎年400本前後の映像作品が作られた。
米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントのアフジャ最高経営責任者(CEO)はイベントで、ハリウッドの地位低下について「米国全体というより、カリフォルニア州特有の問題だ」と指摘する。同州の優遇措置は抽選制で不確実性が高いため、コストを確実に抑制できる地へ流れたというわけだ。
◇「言論の自由」抵触も
コスト抑制が「ハリウッド離れ」の背景にある以上、関税で製作費が膨らめば、公開本数は減少しかねない。各国が報復措置を講じれば、米映画の「輸出」に響くリスクもある。
トランプ氏は関税の具体的な対象や手法を明らかにしていない。「米国映画」の統一した定義もない中、外国との共同製作が増えており、国産と外国産の境界線はますます曖昧になっている。課税対象の選定によっては、憲法が定める「言論の自由」に抵触する恐れもある。
映画市場が広がる中、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」(23年)など多くの外国作品が、米国で高い評価を受けている。関税はこうした多様な視点や物語に出会い、相互理解を育んできた映画文化の土壌を損ないかねない。