「脱リー家」へ転換点=カリスマ不在の集団指導体制へ―シンガポール 2024年05月15日 14時50分

シンガポールのローレンス・ウォン新首相(右)とリー・シェンロン氏(AFP時事)
シンガポールのローレンス・ウォン新首相(右)とリー・シェンロン氏(AFP時事)

 【シンガポール時事】都市国家シンガポールは「建国の父」として今なおたたえられる故リー・クアンユー初代首相の強力なリーダーシップの下、経済発展を遂げてきた。「創業家」として3代目を継いだ長男のリー・シェンロン氏が政治の一線から身を引くことで、カリスマ不在の集団指導体制に移行。今回の首相交代は「脱リー家」への転換点として、歴史に刻まれそうだ。
 「100年以上前、ここは干潟や沼地だった。今から10年後、ここは大都市になる。決してひるむな」。リー・クアンユー氏は建国当初、こう国民を鼓舞したと伝えられる。シンガポールは1965年にマレーシアから独立。ただ、実際には中国系が人口の大半を占めるシンガポールが、マレー人優遇を目指すマレーシアから追放された形で、望んだ建国ではなかったとされる。
 資源もない小国として歩み始めたシンガポールは、リー・クアンユー氏率いる人民行動党(PAP)による実質的な一党支配体制での生き残りを模索。政治の安定と政府の迅速な意思決定を武器に経済立国を推し進め、アジアを代表する金融・物流拠点として飛躍的成長を実現した。
 そうした経緯から、同国の政治体制は中継ぎ的なゴー・チョクトン第2代首相を挟み、これまで「リー家」支配の色合いが濃かった。だが、リー・シェンロン氏は世襲に消極的で、娘1人と息子3人はいずれも政界から距離を置いている。
 リー・シェンロン氏は当面、上級相として閣内に残るが、首相退任前最後の国民向け演説となったメーデー集会で「新首相とその同僚を全面的に信頼しており、引き続き支える」とサポートに徹する姿勢を示した。ウォン氏も首相就任前、英誌エコノミストのインタビューで、歴代首相が退任後、上級相に就いていることを挙げ「(リー・シェンロン氏の存在が)首相としての判断の妨げになるとは考えていない」と明言。「院政」の可能性を否定した。 

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