緊張緩和は不透明=米中、アジア太平洋で「陣取り合戦」 2024年05月31日 19時22分
【シンガポール時事】中国側は米中国防相会談を「前向きで建設的だった」と総括した。両軍関係の安定化に向けた動きを強調する一方、実際はアジア太平洋で米国が進める「対中包囲網」形成を警戒し、威圧的行動を繰り返している。安全保障環境を巡る緊張緩和は見通せない。
「台湾独立は戦争に等しく、分離(独立)に平和はない」。国防相会談前日の30日、中国国防省の報道官は記者会見でこう言い放った。台湾国防部(国防省)は同日夜、人工衛星を搭載した中国ロケットが台湾上空を通過したと発表。習近平政権が「独立派」と敵視する台湾の頼清徳総統と、台湾への武器売却を続ける米国に対するけん制だった。
中国軍は台湾周辺での大規模軍事演習を「新常態」とする構えも見せており、威嚇行動は頻度を増す可能性もある。米国は習政権に「自制」を求め、今後も「航行の自由作戦」などを通じて台湾海峡への関与を続ける方針だ。
習政権が米国の動向に神経をとがらせるのは、台湾や南シナ海の問題が中国の主権に関わるためだけではない。米国が同盟・同志国と結び、アジア太平洋に体系的な包囲網を構築することを懸念しているからだ。
バイデン米政権は、日本や韓国、フィリピン、オーストラリアなどとの安保連携を深化。対抗する習政権は、投資や治安協力を通じて東南アジアや太平洋島しょ国への浸透を図っており、アジア太平洋における「陣取り合戦」の様相を呈している。
中国は今回の会談を前に、友好・周辺国への接近を強める動きを見せた。5月中旬から、防衛協力を進めるカンボジアと約2週間にわたる合同軍事演習を実施。27日には4年半ぶりとなる日韓との3カ国首脳会談を実施し、両国を米国から引き離そうと試みた。
米中は意思疎通の継続によるリスク管理を目指す方向で一致するが、長期的展望は大きく異なる。「台湾統一」を掲げる習政権は、軍事力の増強や途上国の糾合を通じ、今後も米主導の安保体系に揺さぶりをかけていくとみられる。