締め付け「社会生活にも」=天安門事件は個人で追悼―著名評論家の劉鋭紹氏・香港 2024年06月03日 16時45分
【香港時事】中国政府が統制を強める香港では、1989年の天安門事件から35年を迎えた今年も、犠牲者の追悼集会が事実上封じられている。中国や香港政治に詳しい香港在住の著名評論家、劉鋭紹氏(69)は、3日までに時事通信のインタビューに応じ「当局による締め付けは、政治活動だけでなく、社会生活にも及んでいる」と懸念を示した。
◇「扇動」の境界不明確
香港では2020年6月施行の国家安全維持法(国安法)を補完する目的で、スパイ行為などを取り締まる国家安全条例が今年3月に制定された。複数の国安法関連裁判が続く中、劉氏は「当局による締め付けが強まっており、緊迫している。今年は天安門事件から35年の節目に当たり、国安条例施行後で最初の『六四』となるためだ」と指摘。「香港政府は外国勢力がこうした状況を利用することを警戒している」とみる。
香港では天安門事件翌年の90年以降、毎年6月4日に追悼集会が開かれてきたが、近年は開催されていない。劉氏は「追悼は公の場ではなく、個人で行うようになった。市民は違法でないやり方で、SNSに(追悼関連の)写真や動画を投稿している」と語る。
それでも「内容が政府への不満や憎悪を引き起こす可能性があると見なされれば、当局は抑え込みに動く」と予測。「政府は『追悼自体を禁じておらず、扇動の意図が社会不安をもたらす』としているが、『扇動』と『追悼』の境界は不明確だ」と訴える。
◇気持ち離れる政府と市民
劉氏は天安門事件当時、香港紙・文匯報の記者として北京に駐在していた。「全ての過程を自分の目で見た。事件発生を受けて、私は香港で唯一、中国を批判した」と述懐。「この35年間、一貫して中国が豊かで開明的で、諸外国と調和を保つことを願ってきた」と力を込める。
香港では19年、逃亡犯条例改正案への反対運動を発端に大規模デモが起きた。それまで若者世代の多くは、中国本土の追悼活動と自分たちは無関係と考えていたが、中国政府の圧力が直接かかるようになったことで、意識に変化が生じたと劉氏は分析する。
香港政府と市民の乖離(かいり)も実感している。「市民は政府との話し合いの余地が狭まっていると感じ、政府が打ち出すどんな良い政策にも無関心になっている」と強調。公の場での追悼はできなくても「香港人には既に自由、民主、人権、法治の意識がある。自分の身を守りながら、法に触れない形で対応していくだろう」と見通した。