ハリス陣営「どぶ板」徹底=ラストベルトの共和党化に危機感―激戦州ペンシルベニア・米大統領選 2024年10月22日 14時17分
大詰めを迎えた米大統領選の最激戦州、東部ペンシルベニアでは、民主党のハリス副大統領陣営が戸別訪問や小規模集会を繰り返す徹底した「どぶ板選挙」を展開している。2016年に共和党のトランプ前大統領が勝利する震源地となった「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」の一角。共和党支持者の急増に危機感を抱く民主党は、若年層や女性らの支持を追い風に伝統的地盤の死守を目指す。
◇ノルマは1日50軒
「とにかくドアをノックして歩く。有権者に直接会うことが、最も効果的な方法だ」。今月上旬、同州東部ルザーン郡ウィルクスバリの住宅街で、ハリス陣営スタッフのアダム・シャハスキーさん(43)が住宅を1軒ずつ訪ね歩き、票の掘り起こしを進めていた。
この日の「ノルマ」は約50軒。2人1組で3時間近くかけて訪ね歩いた。地元企業で働く労働者世帯が多く、民主党色の濃い地域。投票に行くよう党支持者に念を押すとともに、無党派層も取り込む狙いだ。
よりどころは「反トランプ」感情だ。退職後に小規模事業を手掛けるレン・コーニッシュさん(65)は「人種差別的な発言は受け入れられない」とトランプ氏に嫌悪感を示す。地元企業に勤めていたボブ・ホーデンさん(50)も、トランプ氏は「貧困層や中間層への『共感』がない。富裕層の政治だ」と切り捨てた。
ハリス陣営は9月に入り、戸別訪問などを本格化させた。地元紙によると、8月末時点で州内に50カ所の選挙事務所を構え、5000人以上のボランティアを動員。資金力を生かし、投票を促す「マシン」(米メディア)とも呼ばれる。
◇支持が逆転
だが、民主党を取り巻く情勢は厳しい。ルザーン郡はかつて炭鉱や製造業で栄え、白人が多数派を占める典型的なラストベルト。平均収入は州全体より低く、失業率も高い。1970年代以降は民主党の優勢が続いていたが、金融危機が襲った2009年ごろを境に共和党との差が縮小。16年大統領選でトランプ氏が圧勝すると共和党支持者が急増し、今年8月には民主党を上回った。
民主党地区委員長のトーマス・シュビラさん(40)は、労働者の民主党離れに加え「郡の行政機構で共和党が優勢になったのが大きい。就職も共和党が有利」と「共和党化」の背景を説明する。
トランプ氏は今月上旬、ルザーン郡に近いバイデン大統領の故郷スクラントンで選挙集会を開催。会場に入り切らないほどの支持者が詰め掛けた。幼い子どもと参加したニコル・ポンティロさん(29)は、前回選挙でバイデン氏に一票を投じたが、トランプ氏支持に転向。バイデン政権下では「保育費も卵も何もかも値上がりし、生活は何一つ良くならなかった」と不満をぶつける。
◇カギは無党派層
ニューヨーク・タイムズ紙などが今月上旬に実施した世論調査によると、ペンシルベニアでハリス氏とトランプ氏の支持率は伯仲している。トランプ氏は高齢世代や男性からの支持が厚く、ハリス氏は比較的若い世代や女性で優勢だ。
米ウェストチェスター大のジョン・ケネディ教授は、ハリス氏が「民主党の伝統的支持層である労働者など以外から支持を取り付けた」と指摘。勝敗のカギを握るのは「揺れ動く無党派層」で、投票日の11月5日まで「霧の中を走る選挙戦となる」と予想している。