軍にも「脱炭素」要求=防衛力強化との両立苦慮―独 2024年06月11日 15時35分
【ベルリン時事】脱炭素化に向けた取り組みが各国に求められる中、軍も対応を迫られている。環境政党と連立を組むドイツのショルツ政権にとっても至上命令の一つだが、ロシアの脅威の高まりで「冷戦期と似た雰囲気」(独外交筋)となり、急ピッチで進める防衛力強化との両立に苦慮している。
「防衛産業は軽視されてきたが、それはもう過去のこと。国際法に反したロシアのウクライナ攻撃は、ドイツ全体に新たな安全保障政策の現実を突き付けた」。ショルツ首相は5日、首都ベルリン郊外で開かれた航空・防衛関係の国際展示会でのあいさつでこう訴えた。
ドイツの安全保障環境は、ウクライナ侵攻をきっかけに「時代の転換点」(ショルツ氏)を迎えた。国防費も2024年度は718億ユーロ(約12兆円)まで増加。約30年ぶりに国内総生産(GDP)比2%を超え、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目標を達成した。
一方で、環境政党「緑の党」と連立するショルツ政権にとっては、気候変動対策も最優先課題の一つだ。政府は45年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることを目指している。
軍は各国政府・機関の中で最も多くGHGを排出する組織の一つ。オランダのシンクタンク、トランスナショナル研究所によると、独軍と関連産業による23年の推定排出量は1000万トン余りで、NATO加盟国では米英に次ぐ水準だ。
独国防省は今年3月、防衛と気候変動に関する戦略を初めて策定。軍用機での持続可能な航空燃料(SAF)使用や軍用車両の電気自動車(EV)への転換、隊舎への再生可能エネルギー導入などを進めている。
脱炭素化に向けた取り組みのうち、装備品の燃費改善などは軍の運用能力向上につながる側面もある。一方、初期投資がかさむ取り組みも多く、「まずは防衛力強化を急ぐべきだ」(独軍関係者)との意見が根強い。
ベルリン郊外の国際展示会は、前回22年に続き「持続可能性」を主要テーマの一つに掲げていたが、防衛関係の会場にこうした性能を打ち出した装備品は少なかった。出展していた独防衛大手企業の関係者は「気候変動対策は軍にとっての最優先事項ではない」と指摘。「この数十年は平和だったため更新できていない装備が多く、軍にとっては有事への備えが先だと考えているようだ」と語った。